Kaigaijin
海外在住日本人のメディア
住まいと不動産

職人の予約が半年先——ドイツで水漏れが直らない構造的な理由

ドイツでは修理や工事を頼む職人の予約が取りにくい。手工業の人手不足と制度の関係、そして在住者の現実的な対処を整理する。

2026-09-21
職人修理ドイツ生活

この記事の日本円換算は、1EUR≒185円で計算しています(2026年6月時点)。為替は変動するので、現地通貨(EUR)の金額を基準にしてください。

キッチンの蛇口から水が漏れ始めます。管理会社に連絡すると、職人(Handwerker)を手配すると言われる。そして、来訪日は数週間先、内容によっては数ヶ月先になることがあります。

日本の感覚では信じがたい待ち時間です。しかしこれは怠慢ではなく、供給が構造的に不足している結果です。

手工業が保護され、同時に細っている

ドイツの手工業は、マイスター制度によって品質が担保されてきました。一定の職種では、独立して開業するために資格が求められるとされます。制度の対象範囲は法改正で変わってきました。

同じ手工業の枠の中でも、地区ごとに担当が割り当てられ、断りようのない検査として家に入ってくる職種もあります。煙突掃除人(Schornsteinfeger)が持つ地区独占と行政権限は、その極端な例です。予約が取れない職人と、予約を断れない職人が同じ制度の上に並んでいる。

この仕組みは品質を守る一方、参入の速度を抑えます。人手が足りないから明日から人を増やす、ということができません。訓練には年単位の時間がかかる。

さらに、職人という進路を選ぶ若者が減っている分野もあります。デュアルシステムが機能している国でも、業種によって人気の差は大きい。結果として、需要に対して供給が追いつかない領域が生まれます。

需要側も減らない

一方で需要は減りません。文化財に指定された古い建物を含め、維持と改修は常に必要です。エネルギー効率を高める改修の需要も加わりました。断熱、暖房設備の更新、太陽光の設置。政策的な後押しがあれば、需要はさらに膨らみます。

供給が硬直的で、需要が伸びる。価格が上がり、待ち時間が伸びる。市場としては教科書通りの反応です。

救急外来のトリアージ

病院の救急では、来た順ではなく緊急度で診る順番が決まります。軽症の人は何時間も待ち、重症の人は先に通される。全体として救える命を最大化する仕組みです。

職人の予約もこれに近い運用になっています。水が噴き出している、暖房が完全に止まった、鍵が壊れて家に入れない——こうした事態には緊急対応の枠があります。逆に「そのうち直したい」案件は、後ろに回されます。

つまり、待たされているということは、緊急ではないと判断されているということでもあります。判断が正しいとは限らないので、状況を具体的に伝えることが重要になります。

賃貸なら管理会社が窓口

賃貸に住んでいる場合、自分で職人を呼ぶ前に、大家または管理会社(Hausverwaltung)に連絡するのが原則です。

建物の設備に起因する不具合は、貸主側の負担で修理されるのが基本とされます。借主の権利がどこまで及ぶかは契約と法令で決まります。自己判断で業者を呼ぶと、費用負担でもめる原因になります。契約内容によって扱いが異なるので、賃貸契約書の該当条項を確認してください。

連絡は、電話だけでなく書面(メールを含む)でも残すことをお勧めします。いつ何を伝えたかの記録は、後の交渉で効いてきます。緊急時の連絡先が契約書に記載されていることも多いので、入居時に控えておくと安心です。

実務的な対処

第一に、時間の見積もりを変えることです。修理や工事は数ヶ月単位で計画する。引っ越し、キッチン交換、暖房の更新などは、必要になる前から動き始める。

第二に、複数の業者に同時に問い合わせることです。返事が来ないことも珍しくないので、一社の返答を待ち続けるのは非効率です。

第三に、自分でできる範囲を広げることです。修理カフェのような場や、ホームセンターの相談窓口で、簡単な作業は自分で処理できるようになります。ただし、ガス・電気・水道の本体設備には手を出さないでください。資格と安全の問題です。

同じ不足が別の場所でも起きている

担い手が足りないのは手工業だけではありません。ドイツで妊娠が分かった人は、産婦人科の予約と並行してHebamme(助産師)を探し始めます。しかも妊娠のかなり早い段階から探す人が多い。理由は単純で、担当してくれる助産師が見つからないことがあるからです。需要に対して供給が足りない地域があるとされます。

助産師は妊娠期の相談、出産の付き添い、産後の自宅訪問ケアを担い、医学的な診断と検査を担う医師と役割が分かれています。制度としてはよく設計されている。それでも、労働条件や責任保険の負担といった構造的な問題が背景にあり、担い手が細ってきたと指摘されています。

制度が良く設計されていても、担い手がいなければ機能しない。職人の予約も、医師の予約も、助産師探しも、同じ形をしています。だから対処も同じになります。早く動く。複数に当たる。そして、見つかったら関係を大切にする。

待つことが前提の社会

役所の予約も、医師の予約も、職人の予約も待つ。ドイツで暮らしていると、待ち時間の総量に驚きます。

その裏側には、品質を担保するための資格制度と、無理な稼働をさせない労働の規範があります。夕方以降や日曜に呼び出せる社会なら待ち時間は減りますが、その分、誰かが休めなくなる。

待たされている時間は、誰かが休んでいる時間でもある。腹が立った日には、そう考えると少しだけ気が済みます。

コメント

読み込み中...