香港のマンションのロビーにいる警備員は、何をしているのか
24時間常駐する警備員は防犯だけの存在ではない。宅配、来客対応、緊急時の連絡。彼らが担う機能の広さと、それが可能な理由を読む。
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香港の集合住宅のロビーには、たいてい人が座っている。24時間交代で、深夜に帰っても誰かがいる。
日本の同価格帯のマンションは、ふつう無人だ。オートロックと防犯カメラで代替されている。同じ機能に対して、片方は設備を選び、片方は人を選んだ。この分岐がどこから来たのかという話だ。
機能は防犯だけではない
ロビーの警備員がやっていることを観察すると、防犯以外の業務が相当な割合を占めている。
宅配便の受け取りと保管。来訪者の取り次ぎ。住民からの問い合わせ対応。設備の不具合の一次受け。エレベーターの故障や停電時の連絡。ゴミ置き場の管理。
つまり、建物の運営に関わる雑多な業務の窓口になっている。防犯は業務の一部でしかない。
不在時の宅配が成立する
住民にとって最も実利があるのは、宅配の受け取りだろう。日中不在でも荷物が届き、帰宅時にロビーで受け取れる。
日本では宅配ボックスが同じ役割を果たしている。設備で解決するか、人で解決するか。アプローチの違いだ。香港の住所は棟・階・室の階層が深く、郵便物の宛先表記そのものが複雑なぶん、判断のできる人間がロビーにいる価値は下がりにくい。
人のほうが柔軟性は高い。大きさや形を選ばず、冷蔵が必要なものにも対応できる場合がある。一方、設備のほうがコストは下がる。
なぜ人を置けるのか
24時間交代制で人を配置するには、相応の人件費がかかる。これが管理費に含まれている。
香港の警備業務の賃金水準は、この配置を成立させる範囲に収まっている。裏を返せば、この職種の待遇がそれほど高くないことが、常駐を可能にしている。同じ理屈が家事労働者を雇う経済にも効いていて、香港の住まいの便利さは、いくつもの職種の賃金水準の上に積まれている。
日本で同じ配置をしようとすると、人件費の水準から管理費が跳ね上がる。だから設備で代替する方向に進んだ。
同じ機能をどう実現するかは、その社会の賃金構造に依存する。技術の選択に見えて、実は労働市場の反映であることは多い。
顔を覚えられるという効果
数値化しにくいが、無視できない効果もある。毎日同じ人がロビーにいると、住民の顔と生活パターンが把握される。
見慣れない人が入ってきたときに気づける。高齢の住民が数日姿を見せなければ気づける。防犯カメラには録画はできても、この種の判断はできない。
一方で、自分の出入りが常に見られているということでもある。プライバシーの感覚としては、好みが分かれるところだろう。
住民としての付き合い方
挨拶をするかどうかで、関係の質はかなり変わる。荷物の扱い、来客の取り次ぎ、ちょっとした相談。日常的に言葉を交わしている相手のほうが、細かいところで融通が利く。
広東語ができなくても、簡単な挨拶だけで十分に伝わる。英語が通じる場合もある。
旧正月の時期には、警備員や清掃員に利是(お年玉)を渡す慣習がある。これも関係を維持する仕組みの一部として機能している。
管理費に何が含まれるか
物件を選ぶとき、管理費の額だけを見て高い安いを判断すると誤る。何が含まれているかが物件ごとに違う。
24時間の警備常駐、清掃の頻度、共用設備の維持、貯水槽の清掃、エレベーターの保守。これらの水準が管理費の差になっている。
安い管理費の物件では、警備が日中のみ、あるいは不在ということもある。宅配の受け取りができるかどうかは、生活の利便性にそのまま響く。貯水槽の清掃頻度と並べて、内見時に聞いておくと管理の水準が見えてくる。
こういう見方もできる
ロビーの警備員は、この都市の労働構造が住環境に現れた形の一つだ。人を配置するほうが安く済むから、人が配置されている。
同じことは家事労働者にも、配達員にも、清掃員にも言える。香港の生活の便利さの相当部分は、比較的低い賃金で働く人々の労働に支えられている。段ボールを集めて生計を立てる高齢者が同じロビーの脇を通っていくのを見ると、その層の厚さが目に入る。
この構造をどう評価するかは、簡単に答えの出る問題ではない。ただ、自分が享受している便利さがどこから来ているかを知っておくことは、住民として最低限の礼儀に近いと思う。
ロビーを通るとき、挨拶をする。それくらいのことしかできないが、しないよりはいい。