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高速道路にバイク専用レーンがある国——1970年代に始まった設計思想

マレーシアの高速道路にはバイク専用の分離レーンがある。世界に先駆けたこの設計が何を解決し、どんな課題を残しているかを読み解く。

2026-09-29
バイク交通安全道路設計インフラマレーシア

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クアラルンプール周辺の高速道路を走ると、本線の脇に、車が入れない細い道が並走しているのが見えます。

バイク専用のレーンです。1970年代に設けられたこの構造は、世界の道路史のなかでかなり早い時期の試みでした。

なぜ分離が必要だったか

マレーシアはバイクの多い国です。二輪は安価で、渋滞に強く、駐車も容易。低所得層の主要な移動手段であり続けてきました。

そして交通安全の観点から見ると、二輪は最も脆弱な利用者です。車体が保護構造を持たず、質量差が大きく、衝突すれば重傷につながりやすい。

同じ路面を、時速100キロ超の自動車と、それより遅く車体も小さい二輪が共有する。この状態が事故を生むのは、物理的に自明です。

そこで採られた解が、空間の分離でした。速度と質量の異なる交通を、別の路面に分ける。

効果と、その後の劣化

Federal Highwayに設けられた専用レーンについては、1990年代半ばに行われた調査で、事故率の顕著な低下が報告されたと伝えられています。分離という設計自体は、目的を果たしたと評価されてきました。

ただし、その後の経過は単純ではありませんでした。

長年にわたって、専用レーンの状態が悪化しているという指摘が繰り返されてきました。路面の劣化、排水の不良、照明の不足、そして治安上の懸念。結果として、専用レーンより本線を走るほうが安全だと判断するライダーが出てくる——という逆転が起きます。

安全のために作られた設備が、維持されないことで危険になり、使われなくなる。インフラは作ることと保つことが別の課題であるという、わかりやすい実例です。

2020年代に入り、改修に向けた予算措置が報じられており、施設の再整備が進められています。

設計だけでは足りない

この経緯から読み取れるのは、交通安全が構造物の設置だけでは完結しないという点です。

分離レーンには、継続的な維持管理が要ります。舗装の補修、排水設備の清掃、照明の交換、周辺の除草。これらは目立たない作業で、予算の優先度が上がりにくい。

しかも、利用者は主に低所得層です。政治的な発言力が相対的に弱い層のためのインフラは、後回しにされやすい。設備の劣化は、技術の問題であると同時に、資源配分の問題でもあります。

在住者としてバイクに乗るか

マレーシアで二輪に乗ることを検討する在住者もいます。この国のバイク文化の広がりを踏まえたうえで、判断材料をいくつか挙げておきます。

利点は明確です。渋滞を回避でき、駐車場所に困らず、維持費が安い。この国の都市部の渋滞を考えると、移動時間の短縮効果は大きい。

一方でリスクも明確です。事故時の被害が重く、天候の影響を直接受け、路面状況によっては危険度が上がります。午後になると空が割れて短時間に大量の雨が落ちてくる気候では、視界も路面も一気に悪化する。傘が役に立たない量の雨のなかを二輪で走るというのは、想像よりかなり過酷です。走行中に雷雲が近づいたら、無理に進むより屋根の下で待つ判断のほうが、この国では合理的とされています。

免許については、日本の免許からの切り替えや、現地での取得に関する手続きが必要になります。要件は変わることがあるので、道路交通局(JPJ)の公式情報で確認してください。保険についても、補償の範囲を事前に確認する意味があります。

車を運転する側の注意

二輪に乗らない場合でも、この国で車を運転するなら、二輪の存在は前提条件になります。

車列の間をすり抜けて走る二輪は日常的で、日本の感覚で車線変更をすると危険です。ミラーの死角に入っている可能性を常に想定する必要があります。

特に注意が要るのは、右左折時と、渋滞中の車線変更です。停止している車列の脇を、二輪がかなりの速度で通過していくことがある。ドアを開けるときも同様です。

そして雨天時。視界が悪くなるのは互いに同じですが、二輪の側は制動距離も伸びます。車間を通常より広く取る意味があります。

弱い側に合わせて設計する

道路設計の思想には、二つの方向があります。

一つは、効率を最大化する方向。速い交通を優先し、遅いものを排除する。高速道路が二輪や歩行者を締め出すのは、この論理です。

もう一つが、脆弱な利用者を基準にする方向。最も守られていない参加者が安全でいられるように、空間を配分する。

マレーシアが1970年代に選んだのは、後者に近い判断でした。二輪を締め出すのではなく、二輪のための空間を作った。当時としては、かなり先進的な発想だったと言えます。

その後の維持管理には課題が残りましたが、設計の思想そのものは、いま各国で議論されている自転車専用レーンや歩行者空間の考え方と、直接つながっています。

道路が語る優先順位

道路の断面図は、その社会が誰を優先しているかの図です。何本の車線を誰に割り当て、歩道にどれだけの幅を残し、自転車や二輪に空間を用意するか。

そしてその配分は、誰が費用を払うかという設計とも組み合わさっています。有料道路として建設・運営されてきた高速道路の仕組みのなかで、料金収入を生まない専用レーンの維持がどの順番に置かれるか——劣化の経緯は、その順番が可視化されたものでもある。

マレーシアの高速道路の脇に走る細いレーンは、この国が半世紀前に「バイクに乗る人も守る」と判断した記録です。そして、その判断が数十年にわたってどう扱われてきたかの記録でもあります。

次に高速道路を走るとき、脇の細い道に目をやってみると、そこにコンクリート以上のものが敷かれていることがわかります。

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